返済が厳しいと感じていても、「銀行にどう切り出せばいいのか」「取引に悪影響が出るのではないか」と不安になり、言い出せずにいる社長は少なくありません。
しかし、相談を先延ばしにするほど、資金に余裕がなくなり、銀行との協議で取れる選択肢が狭まることがあります。早い段階で状況を共有できれば、無理のない返済のあり方を一緒に検討しやすくなります。
本記事では、銀行へ相談するタイミングの目安と、相談前に準備しておきたい資料について、元銀行員の立場から解説します。

1.銀行への相談は「返済できなくなってから」では遅い
銀行への相談は、返済が止まってからでは遅く、資金不足が予測できた時点で動き出すことが大切です。
銀行が重視するのは、「なぜ苦しくなったのか」「今後どう立て直すのか」という説明が、数字で裏づけ
られているかどうかです。
ところが、手元資金がほとんど残っていない段階では、計画を練る時間も、改善策を実行して成果を見る
時間も限られてしまいます。結果として、銀行側も柔軟な対応を取りにくくなります。
一方、資金不足が見えてきた段階であれば、決算書や資金繰り表をもとに、返済条件の見直しを含めて
落ち着いて協議できます。
何か月前に相談すれば必ず間に合うという決まりはありませんが、「このままでは危ないかもしれない」
と感じた時点が、相談を考えるタイミングといえます。
● 相談を検討したい資金繰りの兆候
次のような状況が見られたら、早めに相談を検討してください。
① 数か月先の資金残高が不足する見込みである
資金繰り表を作ってみて、数か月先に預金残高が足りなくなる月が見つかった場合は、最も分かりやすい兆候です。
② 税金や社会保険料の支払いを遅らせ始めた
納付を後回しにして資金をやりくりしている状態は、すでに資金繰りに余裕がないことの表れです。
③ 手形・買掛金の支払いに不安が出てきた
仕入先への支払いや手形の決済日が近づくたびに、資金手当てが気になる状態は注意が必要です。
④ 売上の入金を待たなければ返済できない
入金が少し遅れただけで返済資金が足りなくなる状況は、資金繰りの余力が乏しいサインです。
⑤ 追加融資だけでは改善しない可能性がある
借入を増やしても、資金不足の原因が解消されなければ、次の返済で同じ悩みを繰り返すおそれがあります。
この場合は、返済条件の見直しも含めた相談が必要になります。
一つでも当てはまる場合は、状況が深刻になる前に、まず現状の整理から始めてみてください。

2.借換えとリスケの違い
返済が苦しいときの対応策として、よく名前が挙がるのが「借換え」と「リスケ」です。
似たように聞こえますが、仕組みも銀行側の見方も異なります。まずは違いを整理しておきましょう。
(1)借換えとは
借換えとは、新しい融資を受けて、既存の借入金をまとめて返済したり、返済期間を組み直したりする方法です。
複数の借入を一本化したり、返済期間を長く設定し直したりすることで、毎月の返済額を減らせる可能性があります。
ただし、借換えは「新たな融資」にあたるため、あらためて審査を受ける必要があります。
審査では、直近の決算内容や資金繰りの状況、今後の返済見込みなどが確認されます。
業績が悪化している場合や、資金繰りの根拠が十分に示せない場合には、希望どおりに進まないこともあります。
(2)リスケとは
リスケとは、「リスケジュール」の略で、既存の借入金の返済条件を変更することをいいます。
新たに融資を受けるのではなく、今ある借入の返済方法を見直す点が、借換えとの大きな違いです。
主な変更内容には、次のようなものがあります。
- 元金返済の一時的な据置き
- 毎月の返済額の減額
- 返済期間の延長
多くの場合、元金の返済は猶予されても、利息の支払いは継続するのが一般的です。
なお、リスケは会社ごとの状況を踏まえて審査されるものであり、申請すれば必ず認められる制度
ではありません。
なぜ返済が難しくなったのか、今後どのように改善するのかを、資料にもとづいて説明できるか
どうかが重要になります。

3.銀行に相談する前に準備したい5つの資料
銀行に相談するときは、口頭で「返済が厳しい」と伝えるだけでは、状況が十分に伝わりません。
銀行が知りたいのは、「いま会社がどういう状態なのか」「なぜそうなったのか」「これからどうするか」
の3点です。そのため、次の5つの資料を事前に準備しておくと、話がスムーズに進みます。
(1)直近の決算書と試算表
決算書は、会社の業績の推移を示す基本資料です。直近2〜3期分を並べると、売上や利益がどのように
変化してきたかを説明できます。
ただし、決算書は過去の実績にすぎません。決算後の状況を補うために、最新の試算表も用意しましょう。
試算表があれば、現在の損益状況をあわせて説明できます。
(2)借入金一覧表
借入金一覧表は、金融機関ごとの借入状況を一覧にまとめた資料です。次の項目を整理しておきます。
- 借入残高
- 毎月の返済額
- 金利
- 完済予定日
- 保証協会付きか、プロパー(銀行独自の融資)か
どの銀行から、いつまで、いくら返済するのかが一目で分かると、銀行側も返済条件の見直しを
検討しやすくなります。
(3)資金繰り表
資金繰り表は、今後の入金と出金の見込みをまとめた資料です。少なくとも今後6か月程度は作成し、
「いつ、いくら不足するのか」を明確にします。
資金不足の時期と金額が分かれば、必要な対応も具体的になります。銀行にとっても、相談内容を
判断するための重要な材料となります。
(4)資金繰り悪化の原因
資金繰りが厳しくなった原因は、できるだけ数字で説明します。たとえば、次のような要因が考えられます。
- 売上の減少
- 粗利益率の低下
- 人件費の増加
- 原材料価格の高騰
- 売掛金の回収遅延
「景気が悪いから」といった漠然とした説明ではなく、「売上が前年より何%減った」「粗利益率が
何ポイント下がった」のように示すと、説得力が高まります。
(5)今後の改善策
原因を説明したあとは、今後の改善策を示します。具体例としては、次のようなものがあります。
- 値上げ
- 不採算取引の見直し
- 固定費の削減
- 遊休資産の売却
- 売掛金回収の改善
大切なのは、実行できる内容であることです。
いつから、何を行い、資金繰りにどの程度の効果が見込めるのかまで整理しておくと、銀行も計画の
実現性を判断しやすくなります。

3.銀行から確認されやすいこと
必要な資料がそろっても、それだけで話が進むわけではありません。
銀行は資料をもとに、「この会社は立て直せるのか」「返済条件を見直した場合に、計画どおり返済を
続けられるのか」を見ています。
相談の場で確認されやすいのは、主に次の7点です。あらかじめ答えを整理しておくと、落ち着いて対応できます。
(1)資金繰りの悪化は一時的か、構造的か
一時的な要因(大口の入金遅れや突発的な支出など)による悪化なのか、売上の減少や利益率の低下といった
構造的な問題なのかを確認されます。
構造的な問題である場合は、事業の見直しも含めた改善策が求められます。
(2)必要な支援額や返済軽減額はいくらか
「とにかく返済を軽くしてほしい」ではなく、いくら軽減できれば資金繰りが回るのかを、数字で示す必要があります。
希望額に根拠があるかどうかが見られます。
(3)返済を軽減すると、資金繰りは何か月維持できるか
返済条件を見直した場合に、資金繰りがいつまで持ちこたえられるのかも重要な確認事項です。
資金繰り表をもとに、見直し後の見通しを説明できるようにしておきましょう。
(4)本業の利益をどのように回復させるか
返済猶予を受けても、本業の利益が回復しなければ、根本的な解決にはなりません。
どの事業で、どのくらい利益を改善するのかが問われます。
(5)税金・社会保険料に滞納がないか
税金や社会保険料の滞納の有無は、資金繰りの実態や会社の管理状況を判断する材料になります。
すでに滞納がある場合は、その状況と今後の納付方法も含めて説明できるようにしておきましょう。
(6)他の金融機関にも同じ説明をしているか
複数の金融機関と取引がある場合、銀行は他行の動きにも関心を持ちます。
他の金融機関にも同じ内容で相談しているかが確認されることがあります。
(7)経営者自身がどのような改善に取り組むか
最後に、経営者ご自身がどのように改善に取り組むのかも見られます。
役員報酬の見直しや、経営者自身が先頭に立って実行する施策など、経営者の姿勢が計画の信頼性につながります。
これらの質問に、数字と具体的な行動で答えられるほど、銀行は計画の実現性を判断しやすくなり、協議も前に進み
やすくなります。

4.銀行相談で避けたい3つの対応
ここまで、相談の時期や準備する資料、銀行から確認されやすいことを見てきました。
最後に、せっかく相談しても銀行の信頼を損ねてしまう、避けたい対応を3つ挙げておきます。
(1)事前相談をせずに返済を止める
資金繰りが苦しいからといって、銀行に連絡しないまま返済を止めてしまうのは避けたい対応です。
銀行から見ると、無断での延滞と、事前に事情を説明したうえでの条件変更の相談とでは、受け止め方が大きく
異なります。連絡のない延滞は、会社の状況が把握できないだけでなく、「誠実に向き合う姿勢があるのか」
という疑問にもつながります。
一方、返済日の前に状況を説明し、返済条件の見直しを相談していれば、銀行も会社の事情を踏まえて検討
しやすくなります。返済が難しくなりそうだと分かった時点で、返済日を待たずに連絡することが大切です。
(2)根拠のない売上回復計画を出す
「今期は営業を頑張って売上を戻します」「来期には業績が回復する見込みです」といった説明だけでは、
銀行は計画の実現性を判断できません。
売上の回復を見込むのであれば、次のような点を具体的に示す必要があります。
- 販売先:どの取引先に、新規か既存かを含めて販売するのか
- 単価:いくらで販売するのか
- 数量:どれくらいの数量を見込むのか
- 実施時期:いつから実行し、いつ効果が出るのか
たとえば、「既存の取引先A社への納品数量が増える見込みで、単価は現行どおり、来月から月○個の増加を
予定している」のように、裏づけとなる事実や見込みと合わせて説明すると、計画の信頼性が高まります。
楽観的な数字を並べるよりも、実現できる範囲で堅実に示すほうが、銀行の理解も得やすくなります。
(3)金融機関ごとに違う説明をする
複数の金融機関と取引している場合は、すべての銀行に同じ内容で説明することが重要です。
たとえば、A銀行には「売上は回復傾向にある」と説明し、B銀行には「厳しい状況が続いている」と伝えるなど、
金融機関ごとに説明が異なると、銀行同士の情報交換や確認の過程で食い違いが明らかになることがあります。
そうなると、計画そのものの信頼性が疑われかねません。
数字や資金不足の見通し、改善の方針は、どの銀行に対しても統一しておきましょう。そのうえで、各行に
どのような支援を依頼するのかを、整理して伝えることが大切です。

5.自社だけで計画を作れないときに利用できる支援
まだ深刻な返済条件の変更には至っていないものの、早めに資金繰りや経営上の課題を整理したい会社には、
「早期経営改善計画策定支援」、通称「Vアップ事業」があります。認定経営革新等支援機関の支援を受けながら、
資金繰り計画、ビジネスモデル俯瞰図、具体的な改善行動を示すアクションプランなどを作成します。
一方、借入金の返済条件変更や新規融資などの金融支援を伴う、本格的な経営改善計画が必要な場合は、
「経営改善計画策定支援」、通称「405事業」の活用を検討します。計画を作成するだけではなく、金融機関に
対して、業績悪化の原因、今後の改善策、数値計画、返済の見通しなどを説明することが重要になります。
Vアップ事業と405事業では、一定の要件を満たした場合、認定経営革新等支援機関に支払う専門家費用の3分の2が
補助されます。申請窓口は、各都道府県の中小企業活性化協議会です。ただし、補助対象となる費用や上限額、
申請手続などが定められているため、専門家との契約や支払いを行う前に確認する必要があります。
中小企業活性化協議会では、収益力の改善、事業再生、借入金の返済条件変更、複数の金融機関との調整などに
ついて相談できます。また、「どの支援制度を利用すればよいか分からない」「まず経営課題を整理したい」という
場合は、よろず支援拠点に相談する方法もあります。よろず支援拠点は、中小企業や小規模事業者の幅広い経営相談
に無料で対応しており、必要に応じて他の支援機関と連携します。
2026年には、相談の早期化、会社の状況に応じた支援メニューの選択、経営改善後の出口の明確化、伴走支援の強化
などを目的として、Vアップ事業と405事業の手引き・FAQが改定されました。資金繰りに不安を感じた場合は、状況
が深刻になるまで待たず、自社に適した支援制度や相談先を早めに確認することが大切です。

6.まとめ|早めの相談が選択肢を広げる
返済が厳しいと感じたとき、最も避けたいのは、状況を抱え込んだまま時間だけが過ぎてしまうことです。
相談が早いほど、会社に残された時間も、銀行と協議できる選択肢も多くなります。
最後に、本記事のポイントを整理します。
(1)延滞する前に、今後の資金不足を把握する
資金繰り表を作成し、「いつ、いくら足りなくなるのか」を確認しましょう。返済が止まってからではなく、
資金不足が予測できた時点で動くことが重要です。
(2)銀行には、数字と改善策をセットで説明する
決算書や試算表、借入金一覧表、資金繰り表をもとに、悪化の原因と今後の改善策を具体的に示します。
数字の裏づけがあるほど、銀行も計画の実現性を判断しやすくなります。
(3)自社だけで難しい場合は、専門家へ相談する
資料の作成や改善計画の策定を自社だけで進めるのが難しいときは、金融や経営改善に詳しい専門家に相談する
のも一つの方法です。第三者の視点が入ることで、状況を客観的に整理でき、銀行への説明もしやすくなります。
銀行への相談は、決して後ろめたいことではありません。会社を守り、事業を続けていくための前向きな一手です。
「返済が厳しくなるかもしれない」と感じた段階で、まずは現状の整理から始めてみてください。
借入金の返済に不安がある場合は、実際に延滞が発生する前に、今後の資金繰りと銀行への説明内容を整理する
ことが大切です。
次世代経営サポートでは、銀行で27年間、融資・審査業務に携わった経験を生かし、資金繰り表の作成、借換え・
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